大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和51年(行コ)68号 判決 1978年8月01日

控訴人 中島勇 ほか一名

被控訴人 東京都知事

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら代理人は、「原判決を取消す。控訴人五十嵐五郎の訴を東京地方裁判所へ差戻す。被控訴人が控訴人中島勇に対し昭和四六年七月一二日付でした東京都市計画第一二地区復興土地区画整理事業の換地処分のうち、その清算金を原判決添付別紙物件目録(第一)記載の第一従前地につき金一、〇九〇万八、一八四円、同物件目録(第二)記載の第二従前地(以下、右各目録記載の土地については、一括して本件従前地または本件換地という。)につき金二一七万三、九二三円とした部分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張並びに証拠の関係は、左に付加するほか、原判決事実摘示のとおり(但し、原判決四枚目裏八行目の「一三〇、八〇二、一〇七円」を「一三、〇八二、一〇七円」と、同五枚目裏五行目、九行目、同六枚目表二行目、六行目、七行目、同七枚目表二行目の「標準画地」を各「標準宅地」と、同三四枚目表八行目の「知く」を「如く」と各訂正する。)であるから、これを引用する。

(主張)

一  控訴人ら代理人

被控訴人は、路線価指数一個当りの単価の額に誤りを犯したため、本件従前地及び換地の評価を誤つたのである。すなわち、被控訴人の主張する路線価式評価法のいずれの方法においても、標準宅地につき正常な売買価格等に基づいた適正な価格を定め、これを基準として一点単価を算出すべきものであつたのである。そして、本件従前地周辺の大田区西蒲田七丁目四六番七号栄福ビル敷地の公示価格と相続税財産評価基準路線価の最高値の変遷は別表のとおりであつて、右両者の関係からみても、前者を一〇〇とすれば後者は五〇以下であるから、昭和三九年度における相続税財産評価基準の路線価七〇万円(坪当り)の代わりに、その倍額の一四〇万円をもつて適正な価格としてこれにより算出すると、路線価指数一個当りの価格は三〇〇円八九銭となり、これによつて控訴人らの被つた損害を算定すると、その額は一、三一五万

九、七二五円を下らないことになるが、このことによつても、前記指数一個当りの単価算定に誤りの存したことが明らかである。

二  被控訴代理人

(一)  土地区画整理事業における清算金は、土地区画整理事業の施行によつて生ずる施行区域内の権利者相互間の不公平を是正することを目的とするものであるから、施行区域全体について生じた利益の総計を、すべての権利者にその権利の割合に応じて配分する必要があり、そのため比例清算方式が採用されているのである。したがつて、控訴人らの主張するように、従前地と換地との評価額の差によつて清算金を決定することとするときは、土地区画整理事業の施行によつて施行区域内の地価が上昇するため、交付清算金より徴収清算金が多額となり、その結果事業施行者が利得することになつて不当であることは明らかである。

(二)  さらに、土地区画整理事業における土地の評価においては、指数化された各土地の価値を金額で表示することになるが、その指数一個当りの単価は、前記目的に適う範囲内で妥当なものでなければならないとともに、施行区域内のすべての土地について、従前地、換地の双方につき同一時点における価値を示す単一なものでなければならないのである。

(三)  以上のところから、土地区画整理事業における土地評価は、路線価指数一個当りの単価を基準面積に乗じ、さらに比例清算方式によつて各土地の金銭的価値が算出されるのであるが、従前地、換地につき短時間の間に、しかも大量の土地を工事概成時において評価し、さらに各土地間のバランスを計るなど土地区画整理事業の特質、さらには清算金の性格からも、土地価格を構成する諸要因のうち、例えば更地か建付地かどうかといつた土地の個別的事情、利用形態、それを契機とする諸々の社会的、経済的要因など、土地区画整理事業に伴う開発利益(利用増進)以外の諸要因は顧慮されないのであるから、そのすべての諸要因に基づき取引上の経済的価値を求める鑑定評価とは、その目的及びその評価の要素を異にし、したがつてその評価額に差の存することは当然である。

(四)  以上の見地から、土地区画整理事業における土地評価法として、一般的に是認されている路線価式評価法が採用されているが、その指数一個当りの単価算定方法として

(1) 地区内の固定資産税路線価の最高値と区画整理事業施行後の路線価の最高値との対比による方法

(2) 地区内の相続税財産評価基準の路線価の最高値と区画整理事業施行後の路線価の最高値との対比による方法

(3) 相続税財産評価基準の路線価あるいは固定資産税路線価の地区内平均値と区画整理事業施行後における路線価の地区内平均値との対比による方法

の三つがあり、工事概成時を基準として、右いずれかの方法で算出された数値に換地処分までの時点修正を施して指数一個当りの単価が求められるのであるが、右単価はその後土地区画整理事業評価員の意見を聴いた上で決定されるのである。

(五)  本件における指数一個当りの単価は、昭和三九年を工事概成時とし、前記(2)の方法によつて求めた数値に年六分の割合による複利加算によつて換地処分時までの時点修正を行つて算定し、昭和四五年一〇月一四日土地評価員に諮間し、同年一〇月二三日付の答申を得た上同年一一月四日決定されたものである。

(1) 右単価の算定について必要な項目は次のとおりである。

(イ) 昭和三九年度相続税財産評価基準の路線価の最高値

七〇万円(但し、坪当り)

(ロ) 土地区画整理事業施行後の最高路線価

二、〇〇〇

(ハ) 時点修正の利率 年六分

(2) 右の項目に基づいて、指数一個当りの単価は、次の算式によつて求められた。

昭和三九年度相続税財産評価基準の路線価の最高値÷区画整理事業施行後の最高路線価÷三・三(坪を平方メートル当りに修正)=七〇〇、〇〇〇÷二、〇〇〇÷三・三≒一〇六(円)

昭和四〇年から換地処分時(同四五年)まで六年間の時点修正=一〇六×(一+〇・〇六)の六乗≒一五〇(円)

(六) したがつて、昭和三九年から本件換地処分時までに本件従前地の価格が騰貴し、控訴人ら主張のような事象が生じたとしても、本件換地処分の違法事由とはならない。

(証拠関係)<省略>

理由

当裁判所は、控訴人五十嵐の本件訴は不適法として却下すべきものであり、控訴人中島の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断するものであつて、その理由は、左に付加、訂正するほか、原判決がその理由において説示するところと同一であるから、右説示を引用する。当審における新たな証拠調の結果を掛酌しても、引用にかかる原審の右認定、判断を左右することができない。

一  原判決四五枚目裏三行目の次に、次の文言を加え、同五行目の「右の数値」とあるを「右<1><2>の数値」と訂正する。

<証拠省略>を総合すると、被控訴人は本件土地区画整理事業の工事概成時である昭和三九年の施行区域内における相続税財産評価基準の路線価最高値と本件土地区画整理事業施行後における路線価の最高値との対比によつて算出した数値に、換地処分時たる同四五年まで年六分の利率による複利加算を施し時点修正を行つて路線価指数一個当りの単価を算出したこと及び

(イ)  昭和三九年度相続税財産評価基準の路線価の最高値 七〇万円(坪当り)

(ロ)  区画整理事業施行後の路線価の最高値 二、〇〇〇であることが認められる。したがつて、この方式による路線価指数一個当りの単価は、(イ)÷(ロ)÷三・三(単位面積一平方メートル当りに換算するため)×(一+〇・〇六)の六乗(時点修正)によつて求められるから、右算式に前示各数値をあてはめて計算すると、一五〇円となる。

二  原判決五一枚目表四行目から同裏二行目までを次のように改める。

路線価評定の方法としては、前示土地評価の方法と同様に、達観方式、採点方式のほかに評定算方式があり、そのうち前二者は土地区画整理事業の特質に照らして採り得ないので、一般には理論的に優れている後者の方法が採用されている。そして、右の評定算方式には、被控訴人の主張するように、公権的な土地評価とされる公課の路線価の最高値との対比によるものとして三つの方法が存するが、そのうち被控訴人の採用した方式は、前示のとおり、土地区画整理事業施行区域内の相続税財産評価基準の路線価の最高値と右事業施行後の路線価の最高値を対比して得た数値に、工事概成時から換地処分時まで年六分の利率による複利加算をして時点修正を行い、指数一個当りの単価を算出する方法であつて、この方法は、土地区画整理事業の施行に適合する合理的なものということができる。

そして、本件土地区画整理事業の施行者である都知事が、法七一条、六五条に定めるところに従い、右のようにして算出した路線価指数一個当りの単価一五〇円につき、昭和四五年一〇月一四日土地区画整理事業評価員に諮問し、同月二三日その答申を得たうえ、同年一一月四日これを決定した事実は、<証拠省略>を総合して認めることができ、かようにして決定した前示指数一個当りの単価自体についてそれが不相当であると疑うに足りる資料はなんら存しない。

三  原判決五一枚目裏三行目から同五二枚目裏九行目までを、次のように改める。

四  控訴人中島は、本件土地区画整理事業における本件従前地及び換地の評価は正常価格によるべきである旨主張する。

しかしながら、土地区画整理事業において清算金等を決定するためになされる土地の評価は、施行区域内における広大な面積にわたり、しかも多数の従前地、換地の双方につき、同一時点で公平かつ迅速に、その事業による利用価値の増進を把握するためになされるものであるから、土地の利用価値の変動が土地区画整理事業の施行以外の原因によつて生じた場合にはこれを顧慮しないなど、取引市場における交換価値の把握を目的とし個別的に評価する鑑定評価とは、評価の目的、要素、方法を異にするから、両者の土地評価に差異の生ずることはむしろ当然であるといわなければならない。したがつて、被控訴人の本件従前地及び換地の評価額が、<証拠省略>のそれより低額であるからといつて、被控訴人の右土地評価に瑕疵があるものということはできないし、もとより、そのいうところの正常価格に基づいて指数一個当りの単価を算出しなければならないものではないのである。

なお、控訴人中島は、本件従前地、換地周辺の土地公示価格と相続税財産評価基準の路線価最高値を対比し、後者の二倍をもつて適正な時価として算定しても、指数一個当りの単価の算定が誤りであることが明らかであるという。しかし、公示価格の制度は本件土地評価の基準時である昭和三九年の工事概成時には施行されていなかつたのであるから、控訴人中島の主張する土地の昭和四五年以降における公示価格と相続税財産評価基準の路線価の最高値との対比によつて、本件従前地、換地の工事概成時における適正時価を推認することはできないし、また、当審証人福本又一の供述するように、右土地の工事概成時における相続税財産評価基準の路線価の最高値が正常価格の約六〇パーセントであるということもできず、他に前示指数一個当りの単価の算定に誤りがあつたことを窺わせるに足りる証拠は存しない。

よつて、本件控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡本元夫 長久保武 加藤一隆)

別表

年度

公示価格(A)

相続税路線価(B)

割合(B/A)

昭和39年度

なし

〃40〃

〃41〃

〃42〃

〃43〃

〃44〃

〃45〃

2,875,959

880,000

0.30

〃46〃

3,008,187

1,120,000

0.37

〃47〃

3,140,415

1,560,000

0.49

〃48〃

3,768,498

1,815,000

0.48

〃49〃

4,429,638

2,475,000

0.55

〃50〃

3,966,840

2,475,000

0.62

〃51〃

3,966,840

2,645,000

0.66

〃52〃

3,966,840

2,607,000

0.65

(註 3.3m2当りの価格)

【参考】第一審判決

(東京地裁昭和四六年(行ウ)第一九〇号昭和五一年九月二一日判決)

主文

一 原告五十嵐五郎の訴を却下する。

二 原告中島勇の請求を棄却する。

三 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

(原告ら)

一 被告が原告中島勇に対し昭和四六年七月一二日付でなした東京都市計画第一二地区復興土地区画整理事業の換地処分のうち、その清算金を別紙物件目録(第一)記載の第一従前地につき一〇、九〇八、一八四円、同物件目録(第二)記載の第二従前地につき二、一七三、九二三円とした部分を取消す。

二 訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

一 本案前の答弁

1 原告らの訴を却下する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

二 本案の答弁

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

(原告らの請求原因)

一 原告中島勇は、別紙物件目録(第一)及び同(第二)各記載の従前の土地(以下「本件第一、第二従前地」又は単に「本件従前地」ともいう。)を所有していたものであり、原告五十嵐五郎は、昭和四五年一一月二〇日付をもつて原告中島から本件従前地にかかる東京都市計画第一二地区復興土地区画整理事業の換地計画による換地処分に基づく清算金の交付を受ける債権(利息を含む。)を譲り受けたものである。

二 被告は、前記土地区画整理事業施行者として、昭和四六年七月一二日付をもつて原告中島に対し、同人所有の本件従前地を別紙物件目録(第一)及び同(第二)記載の換地処分後の土地(以下「本件換地」という。)に換地すること(以下「本件換地処分」という。)及び交付清算金額を同目録記載のとおり合計一三、〇八二、一〇七円と決定する旨の処分(以下「本件清算金交付決定処分」という。)をした。

三 しかしながら、本件換地処分は以下のとおり違法である。

1 本来、土地区画整理法(以下、単に法という。)八九条一項によれば、換地計画において換地を定める場合においては、換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するよう定めなければならないとされている。

ところが、本件換地処分による換地処分後の土地は、次のとおり本件従前地と照応するものではない。

(一) 本件換地処分は現地換地ではなく、飛換地であり、しかも、従前地から約五〇〇メートルも離れている。

(二) 本件従前地は、いずれも国鉄蒲田駅、東急目蒲線蒲田駅に極めて近く、附近一帯は各種商店、飲食店が立並び蒲田銀座と呼ばれる周辺随一の繁華街であつた。そして、本件従前地は右繁華街の一画を広く占めていたのに対し、換地処分後の土地は、繁華街からかなりはずれたところに位置し、附近には店舗等も散見するにとどまる。

(三) しかも、本件換地は、南雲病院所在地(大田区西蒲田七丁目二五番三、四号)に隣接することになつたため、飲食店あるいは遊戯施設等を経営するには、同病院の同意が必要であるなど、土地の利用が極めて制限されたものとなつている。

2 右のような次第で、本件従前地の価額は、三・三平方メートル当り一、三〇〇、〇〇〇円(総額三五四、九〇〇、〇〇〇円)を下らないのに対し、換地処分後の土地はせいぜい三・三平方メートル当り五〇、〇〇〇円(総額一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円)程度にすぎない。したがつて、本件従前地と本件換地の各価額の差、すなわち二五四、九〇〇、〇〇〇円は清算金として原告に交付されるべきであり、それによつて初めて本件換地処分により生じた不公平、不利益が補償されたこととなるのである。

しかるに、本件換地処分が決定した原告に対する清算金は前記のとおり一三〇、八〇二、一〇七円にとどまり、甚だ僅少である。

3 さらに、本件区画整理事業担当の被告の係員らは、原告が前記のような不利益な換地処分を受けることにつき、その不利益分は必らず清算金を以て償われる旨約束していたものであるから、それにもかかわらず本件換地処分をなしたのは著しく信義に反するというべきである。

(被告の主張に対する原告らの反論)

一 土地区画整理事業における従前地及び換地の評価額は正常価格をいうものであり、正常価格とは、公共用地の取得に伴なう損失補償基準要綱にいう正常な取引価格を指すものである。

ところが、被告は、この正常価格よりかなり低いこと公知の事実に属する固定資産税課税評準額よりもなお低く本件従前地及び換地を評価しているのであつて、右誤りは明白である。

すなわち、被告は従前地及び換地の評価方法として路線価方式を採用しているのであるが路線価方式はそれ自体万能な評価の方法ではあり得ず、路線価方式によつて算出される価格が正常価格と一致するためには、標準画地の位置、その評価、その数が適切であり、かつそれを基準とする路線価指数の決定、奥行逓減割合、不整形等の修正割合が適正になされることが必要である。

標準画地の評価については、通常の土地評価と同様、取引事例比較法・収益還元法・原価法等の方法が駆使されて、正しい評価がなされるべきものであるが、その評価に誤りがあると広い範囲の土地評価すべてに誤差を生ぜしめ、その評価が正しくなされたとしても標準画地の数が少な過ぎると路線価の付される個々の具体的土地の評価につき誤差を生じ易く(本件のように、商店街、商住地のうち商店割合の多いところ、住宅の割合の多いところ、住宅街等が狭い範囲に混在しているところでは、標準画地の数が少いと、その誤差がとくに大きくなる。)、その標準画地の位置が不適切であれば、それに関係する全土地の路線価に狂いを生ぜしめることになる。また路線価指数・奥行逓減割合等の決定が不適切であるときにも、誤りが生ずるこというまでもない。

二 被告は、本件は路線価式評価法という合理的な評価方法により算出されたものであるから違法はないというが、原告は、被告によるその路線価方式の具体的適用において、前項に指摘したような点の全部又は一部に誤りがあつたと主張するのである。

もし路線価式評価方法によつたから正しいというのであれば、路線価式評価方法の採用せられている土地固定資産税標準価格、相続税課税標準価格、それから区画整理の際の評価額がそれぞれかなり違つた数字を示していることをどう説明するのであろうか。路線価方式によるときは、必ず正常価格が正しく算出されるというのであれば、そこに差が生じる筈がないのではないか。

三 本件において、その標準画地としてどことどこが選定され、その評価がいくらであつたかは原告らには明らかでないが、少くとも本件の従前地及び換地の路線価として被告が決定した数額は不当に安いものであることは、鑑定人平野常雄の鑑定の結果から疑いがないところである。

このことは、つぎの事実からも裏付けられる。すなわち、土地固定資産税課税標準価格が正常価格よりはるかに安いものであることは、公知の事実に属するところ、本件換地についての昭和四六年度のそれは約四〇、四七〇、〇〇〇円(<証拠省略>には昭和四七年度と四八年度の記載しかないが、昭和四六年度も昭和四七年度と同額である。)であつて、本件換地の路線価として被告が決定した約二五、一六〇、〇〇〇円の一・六倍強、昭和四八年度のそれは、五九、二二〇、〇〇〇円であつて、本件換地の路線価として被告が付した二五、一六〇、〇〇〇円の二二二五倍強である。別の表現をすると、被告が本件換地につき算出した路線価は、昭和四六年度の土地固定資産税課税標準価格の約一・六分の一以下、昭和四八年度のそれの二・三五分の一以下の、極めて低い数字だということである。

換地についてのこうした安すぎる評価は、同一の評価方法で、同一担当部署によつてなされた従前地の評価も当然に安すぎることを推認させるものであるし、平野常雄による鑑定の結果は、このことをも充分に裏付けているのである。

四 こうした評価の誤りは、原告に大きな不利益を課すものである。わかり易くするために、従前地の評価が一〇、〇〇〇、〇〇〇円、換地の評価が八、〇〇〇、〇〇〇円であり、清算金が二、〇〇〇、〇〇〇円と仮定し、さらにその路線価評価に誤りがあり、従前地・換地ともに二〇パーセント低く評価したと仮定する。この場合には、その清算金は、本来はつぎの算式によつて算出され、その額は二、四〇〇、〇〇〇円となるべきものである。

(一、〇〇〇万円+二〇〇万円)-(八〇〇万円+一六〇万円)=二四〇万円

このことから明らかなように、評価に右のような誤りがあるときは、清算金は四〇〇、〇〇〇円だけ足りないことになるのであり、換地処分を受ける者は、結局正当な補償なくして、土地を取上げられたのと同一の結果となる。

では、従前地及び換地の正常価格はいくらをもつて相当とするであろうか。原告は、鑑定人平野常雄の鑑定の結果を援用し、従前地は、一五五、三六〇、〇〇〇円、換地は一〇四、三六〇、〇〇〇円と主張する。

もつとも被告は、右平野常雄による鑑定は、それをなすにつき目的物の特定が充分になされていない旨非難する。しかし従前地についてはともかく、換地についての右鑑定評価については、そうした非難はあたらない。その特定に欠けるところがないからである。

ところで、右平野常雄の鑑定によれば、本件換地の正常価格は一〇四、三六〇、〇〇〇円であり、被告が本件換地に付した路線価は約二五、一六〇、〇〇〇円であつて、その四・一四分の一弱となる。このことは、従前地についても、正常価格は、少くとも、被告が付した路線価約三八、二四〇、〇〇〇円の四・一四倍強であることを推認せしめる。というのは、換地の路線価方式による評価も、従前地の路線価方式による評価も、いずれも同一の担当部署において、同一時期になされたものであり、そうである以上換地につき右のような評価の誤りがあれば、従前地の評価についても、当然に同様の誤りが生じているものと事実上推定せられるべきものであるからである。

なお、平野常雄の鑑定によれば、従前地の正常価格は一五五、三六〇、〇〇〇円であり、被告による価格は約三八、二四〇、〇〇〇円であつて、被告の定めた路線価は平野鑑定による評価の四・八一分の一弱である。この数字は、換地について、平野鑑定に対する被告の評価の割合の数字(四・一四分の一弱)に近似するものであつて、平野鑑定は、目的物件の特定に困難を伴つたにも拘らず、従前地についても正しい価格を算出していることを推認せしめるものである。

言いかえると、被告のなした路線価方式による評価は、従前地・換地ともに、その具体的適用に不適切な点があつたため、正常価格の四・一四~四・八一分の一という低い評価をしてしまつているのである。

加うるに、従前地は、通行の用に供せられる土地である通路に接しているにも拘らず、被告はこれを盲地として評価する誤りをも犯している。

五 以上の次第で、被告は、本件従前地の価格を一五五、三六〇、〇〇〇円、本件換地の価格を一〇四、三六〇、〇〇〇円、清算金の額を五一、〇〇〇、〇〇〇円と決定すべきものであつたのであり、このことを算式に示せばつぎのとおりである。

一五、五三六万円-一〇、四三六万円=五、一〇〇万円

しかるに、被告はその評価を誤り、清算金の額を一三、〇八二、一〇七円としたのであつて、原告にその差額約三八、〇〇〇、〇〇〇円の損害を課すものであり、被告の右処分は明らかに違法というべきものである。

六 被告は、本件従前地及び換地の評価額が固定資産税課税評準額よりも低い理由として、土地区画整理事業における清算金の特質からくるものであるというが、仮りに換地指定のされない土地に対する清算金について考えてみれば、その清算金が原告のいう正常価格を前提として算定されなくてはならないことは疑いがない。そうでないとすれば、それは正当な補償なくして財産権を奪う結果を認めることとなり憲法の財産権保障規定に違反する。

被告は、換地処分をなすに当つては、現地またはそれに近接する位置に換地を指定すべきであるにかかわらず(そうした場合は路線価の評価に誤りがあつても、それほど大きな問題を生じない。)、本件においては、あえて、その大部分をずつと離れた位置に飛び換地としたのであつて、その点にそもそも問題があつたのである。しかも、その飛び換地に不満な原告をおさえるために、清算金について、特別な配慮をすると言つてこれを抑えておきながら、何の配慮もしないばかりか、右のように評価を大きく誤り、土地の固定資産課税標準価格よりもはるかに低い価格を定め、かえつて、当然に支払うべき清算金よりもはるかに少い金額の決定をしているのである。

よつて、被告の右清算金を一三、〇八二、一〇七円とする本件処分を取消し、さらに被告をして、適切な処分をなさしめるべきものである。

(被告の本案前の答弁-原告適格の有無について)

一 原告両名の訴について

原告らは、本件換地処分による原告中島に対する交付清算金決定処分の取消を求めている。しかし、右交付清算金の決定は、原告中島に対して清算金を交付しようとするものであるから、何ら原告らの権利を侵害するものではなく、いわゆる授益的処分である。ところで、一般に授益的処分の取消の訴は、訴の利益を欠き許されないから、本件訴は、原告適格を欠き不適法なものである。

二 原告五十嵐の訴について

処分の取消を求める訴は、原則として処分の対象となつた者が提起しうるものであり、処分の相手方以外の第三者は、当該処分の取消を求めるにつき法律上の利益を有する場合に限り右訴を提起しうるのである。

ところで、清算金は、換地処分において従前地と換地との間に、若干の不照応があつた場合に、これを金銭をもつて埋めあわせるためのものであつて、換地処分の一部をなすものである。したがつて、換地処分の一部(すなわち、清算金の決定)の取消を求めうる者は、従前地についてなんらかの権利をもつ者に限られ(清算金の多少がその権利に影響するから)、それ以外の者は、その取消を求める法律上の利益をもたないというべきである。

原告五十嵐は、本件換地処分の相手方ではなく、原告中島に対してなされた換地処分により発生した単なる交付清算金債権の譲受人にすぎず、本件従前地についてなんらの権利をもつ者ではない。

なお、交付清算金債権の単なる譲受人である原告五十嵐は、本件換地処分の相手方である原告中島の地位までも承継したものではないから、この点からみても本件換地処分の一部(すなわち、本件清算金の決定)の取消を訴求しうる権利をもたないことは勿論である。

以上要するに、本件については、原告中島が勝訴したとすれば、その結果、原告五十嵐が譲りうけた交付清算金が増加し、原告五十嵐はその目的を達するのであつて、それ以上に独自に原告五十嵐に訴の利益を認める必要がないのである。

よつて、本訴は不適法であるから、その却下を求めるものである。

(請求原因に対する被告の認否)

一 請求原因一、二は認める。

二 同三1のうち、本件換地処分が照応原則に違背するとの点は争う。

同三1の(一)のうち、本件換地処分が現地換地ではなく、飛換地であることは認めるが、本件換地が本件従前地から約五〇〇メートルも離れていることは否認する。本件換地と従前地との距離は約二〇〇メートルである。

同三1の(二)のうち、本件従前地が国鉄蒲田駅、目蒲線蒲田駅に近く位置し、その一帯が繁華街であること及び本件換地が繁華街からはずれていることはいずれも認める。しかし、本件従前地が繁華地の一画を広く占めていたという主張が、繁華街を構成していたという意味であれば、これを否認する。本件従前地附近は、道路の両側に商店等が立ち並んで繁華街を構成しているにすぎないいわゆる路線商業地帯であつて、本件従前地はその繁華街の裏地に位置していたにすぎなかつた。

同三1の(三)のうち、本件換地が南雲病院に隣接していることは認めるが、その余は不知。

三 同三2のうち、本件清算金が一三、〇八二、一〇七円と決定されたことは認めるが、その余は否認する。

四 同三3のうち、区画整理事務所の担当者が、原告中島に対して本件清算金について原告ら主張のような約東をしたことは否認する。主張の趣旨は争う。

(被告の主張)

一 事件の経緯

1 被告は、昭和二四年一一月一九日、本件東京都市計画第一二地区復興土地区画整理事業計画を決定し、昭和三四年一一月七日訴外双葉電子工業株式会社に対して、その所有にかかる本件従前地を含んで一筆の土地であつた東京都大田区御園一丁目二五の一四の宅地一一八〇・六六平方メートル(以下「分筆前従前地」という。)について、仮換地を二五の一四甲(四〇坪)、同乙(一九九坪)および同丙(二六坪)とする分割換地を行つた。

被告は、昭和三五年六月二一日、右仮換地指定処分のうち二五の一四甲についてはこれを取消し、あらためて、同日付で二五の一四甲を三九坪とする仮換地の指定を行なつた。

2 原告中島は、昭和三七年一月一八日、右分筆前従前地を訴外会社から取得し、所有権移転登記を了したところ、昭和四五年六月二二日、右分筆前従前地を同区御園一丁目二五の一四(七五〇・四一平方メートル、第一従前地)と同番の九九(四三〇・二四平方メートル)とに分筆した。そして、右分筆にあたり原告中島は、被告に対して、第一従前地の仮換地を二五の一四乙の一部に指定してほしい旨の「分筆による仮換地分筆願」を提出したので、被告はこれを審査し承認することとした。

3 原告中島は、昭和四五年六月二四日、右分筆によつてあらたに生じた二五番の九九の土地を、さらに、二五番九九(一三九・二一平方メートル、第二従前地)から同番の一〇七までの九筆に分筆し、同番の九九を除く八筆の土地を同年七月二九日と同年一二月二三日の二回にわたつて、訴外中西幸夫らにそれぞれ譲渡した。そして、右分筆にあたり、原告中島は、被告に対して、第二従前地の仮換地を二五の一四乙の一部に指定してほしい旨の「分筆による仮換地分筆願」を提出したので、被告は、これを審査し承認することとした。

4 被告は、昭和四六年二月一五日から同月二八日までの間、本件土地区画整理事業についての換地計画を縦覧に供し、昭和四六年七月一二日、原告中島に対して、本件換地処分及び本件交付清算金決定処分を行なつた。

二 清算金の性質について

土地区画整理事業における清算金は、原告の主張するように従前地と換地との評価額の差を単純に計算して、その差額を交付し又は徴収するものではない。すなわち、清算金の算定は先ず後記五、六の方法で算出された評定価額を合計して当該施行地区における従前の宅地及び換地についてそれぞれ宅地価額の総額を求め、つぎに、当該施行地区または工区において交付すべき清算金と徴収すべき清算金の総額を等しくするために、換地についての宅地価額総額の従前の宅地価額総額に対する比(これを比例係数という。)を求め、この係数を従前の各宅地の評定価額に乗じて、それぞれ比例権利価額を算定する。この操作が施されて従前の宅地の比例権利価額の総額と換地の評定価額の総額は等しくなるのである。

右の結果、各宅地の清算金は、従前の宅地の比例権利価額と換地の評定価額との差となり、したがつて、従前の宅地の比例権利価額が換地の評定価額より高額の場合は、交付清算金となり、これと逆の場合は徴収清算金となるのである。

このようにして算出された土地区画整理事業にともなう清算金は、従前地と換地との評価額の差を単に権利補償または不当利得として清算するものではなく、当該土地区画整理事業によつて生じた施行地区内における権利者間の不均衡を金銭で相互に清算するとともに、当該事業によつて生じた利益を地元に還元する作用を営むものである。したがつて、原告らが単に本件従前地と本件換地との鑑定価額の差をもつて清算金となるとの主張は、右価額が不当なものであることはおくとしても右清算金の性質からみて理由がないというべきである(なお、本件における交付清算金の具体的算定は後記七のとおりである。)。

三 本件従前地と本件換地との照応について

1 原告らは、本件従前地が繁華街の一画を広く占めており、したがつて、その評価は三・三平方メートル当り一、三〇〇、〇〇〇円を下らないのに対し、本件換地は、繁華街からはずれたところにあり、その評価は三・三平方メートル当り五〇〇、〇〇〇円程度であるから、本件換地処分が照応原則に反していると主張する。

しかし、本件従前地は、いずれも繁華街を構成していたものではなく、その裏地であり、しかも路線に接していないいわゆる盲地である。したがつて、その換地を指定するにあたり、現地換地として当該場所において路線に面する土地を付与することは、不当に評価の高い換地を与えることになり、その結果として原告中島に莫大な徴収清算金を課すことになつてしまう。さらに、現地換地をするにしても、現に路線に面している従前地に対して優先的に換地を与えるのであり、しかも換地として盲地を指定することはありえないのであるから、本件従前地のような盲地に対しては、その評価に見合う路線に面する土地を同一施行地区内の他の場所に見つけざるをえないのであつて、その結果、飛換地を指定することになつた次第である。

2 次に、本件換地と本件従前地とは、原告らが主張するように五〇〇メートルも離れたものではなく、せいぜい約二〇〇メートル程度しか離れていないのである。また、国鉄蒲田駅からの距離は、ともに二〇〇メートル程で両地はほとんど同距離であつて、本件従前地が本件換地より駅に近いとはいえないのである。

3 そして、一般に換地を定めるにあたつて、換地と従前地との位置、地積、利用状況、環境等を総合的に判断して決定するものである。したがつて、本件従前地がいずれも前述のとおり盲地であつたことを考慮すれば、その飛換地として本件換地を指定したことは、なんら照応原則に反する違法なものとはいえず、原告らの主張は失当である。

四 土地区画整理にともなう土地の評価方法について

1 東京都における土地区画整理事業にともなう土地の評価方法は路線価式評価法によることとされている(土地区画整理事業土地評価基準第三)。

路線価式評価法とは、街路毎にこれに接する標準画地(路線に直角に接し、その平均的利用価値が最高とみなされる矩形地)を選定して、その単価面積に対する価格(路線価)を定め、さらに個々の画地の特殊性にもとづき増減する価格をこれに付加しまたは控除して当該画地を評価する方式である。

2 路線価式評価法による土地評価にあたつては、まず各路線について路線価すなわち標準面地の平方メートル当りの価格を決定し、次に、当該施行地区または工区における施行前の路線価の最大値を一〇〇〇(個)として比較換算した指数を各路線について表示する(これを路線価指数という。)。

3 ついで、各々の宅地を評価するために、右のようにして決定された当該画地の接する街路の路線価指数に、当該画地の奥行長に応じた奥行逓減割合(盲地の場合は、単独奥行百分率)を乗じて平方メートル当り指数を求め、右指数に当該画地の地積を乗ずることによつて総指数を算出する。さらに、当該画地が標準画地に比べて修正すべき事項(間口狭少、不整形、袋地、盲地等)があれば、それぞれ修正が加えられる。

4 右のようにして算出された総指数に指数一個当りの単価を乗ずることによつて、はじめて当該画地の評定価額が得られる。右にいう指数一個当りの単価は、相続税財産課税標準価格、固定資産税課税標準価格あるいは鑑定評価等を参酌し、さらに評価員の意見を聞いて定められるものである。

五 従前地の評価について

1 本件従前地は、すでに述べたとおり、大田区御園一丁目二五番一四(登記簿地積一一八〇・六六平方メートル)が、区画整理事業施行中に原告中島により二度にわたつて分筆された結果、最終的には一〇筆の土地に分割されたものである。このように、区画整理事業の途中において対象土地の分筆がなされた場合には、原則的には分筆後の各土地についてそれぞれ別個に評価することになるが、すでに分筆前の従前地について評価の作業が進行している場合、その後の分筆毎に再評価したのでは区画整理事業が停滞することになる。そこで、本件従前地についても分筆前の従前地を一筆として計算し、平均平方メートル当り指数を求め、これに分筆後の各筆の面積を乗ずることにより、各筆の評定指数が算定されたのである。

2 分筆前の本件従前地は、国電蒲田駅の西方約二五〇メートルに位置し、その地上にはバラツク建ての建物が密集しており、付近一帯はいわゆる特殊飲食店街ともいうべき状況であつた。

そして、右土地は、敷地内の路地によつて駅前から続く商店街に通じていたが、商店街の一部を構成していたものではなかつた。しかも、商店街に至るまでの路地状の通路は、登記簿上私道として分筆されていたものではなく、したがつて、右従前地はいわゆる盲地であつた。

3 右のような状況にあつた分筆前従前地を評価するにあたつて必要な要素を被告は次のとおり認定した。

(一) 路線価

本件分筆前従前地は、前述のとおり盲地であり道路に直接面していなかつたので、これに最も近接する道路の路線価を使用したが、それは五〇〇であつた。

(二) 面積

本件分筆前従前地の登記簿上の面積は、一一八〇・六六平方メートルであつたが、土地評価の基礎となる基準地積(公共用地で囲まれた一画地内の実測面積と登記簿上の面積との差があつた場合に、それを当該画地内の各筆の面積に応じて按分し、登記簿上の面積と合計したもの)は、一一八四・九五平方メートルであつた。

(三) 単独奥行百分率

路線価五〇〇の道路から本件分筆前従前地の中心までの距離は三九メートルであつたので、これに対応する単独奥行百分率は七九・〇であつた(土地評価基準B表適用)。

(四) 盲地修正割合

路線価式評価法による土地評価は、評価の対象となる土地が道路に接していることを前提として組立てられているため、路線価の付された道路に全く接していない本件分筆従前地のような盲地を評価する場合には、一般に近隣地との均衡を失しないように修正を加える必要がある。そこで、被告は、付近の状況等を考慮の上、本件分筆前従前地の盲地修正割合は七〇パーセントが相当であると判断した。

4 右の評価項目にもとづいて、被告は、本件分筆前従前地の平均平方メートル当り指数を次のとおり算定した。

〔合計指数〕

路線価×面積×単独奥行百分率×盲地修正割合=五〇〇×一一八四・九五×〇・七九×〇・七=三二七、六三八・七

〔平均平方メートル当り指数〕

合計指数÷面積=三二七、六三八・七÷一一八四・九五≒二七七

5 分筆後従前地のうち、大田区御園一丁目二五番一四(本件第一従前地)の評価については次のとおりである。

(一) 右従前地の評価に必要な項目を次のとおり認定した。

(1) 平均平方メートル当り指数

前述したとおり、分筆前従前地について計算したところから二七七である。

(2) 面積

本件第一従前地の登記簿上の面積は七五〇・四一平方メートルであつたが、基準地積は、七五三・一五平方メートルであつた。

(3) 指数一個当りの単価

本件土地区画整理事業における指数一個当りの単価は、土地区画整理事業評価員の意見を経て一五〇円と決定された。

(4) 比例係数

比例係数は、当該地区における交付清算金と徴収清算金の総額を等しくするために、換地についての宅地価額の総額の従前地における宅地価額の総額に対する比をとるものであるが、本件地図においては、一・〇三〇九七五六二四であつた。

(二) 右の評価項目にもとづいて、本件第一従前地の評価は、次の算式により求められた。

(1) 評定指数

平均平方メートル当り指数×面積=二七七×七五三・一五=二〇八六二三

(2) 評定価額

評定指数×指数一個当りの単価=二〇八六二三×一五〇=三一二九三四五〇

(3) 比例権利価額

評定価額×比例係数=三一二九三四五〇×一・〇三〇九七五六二四=三二二六二七八四(円)

6 分筆後従前地のうち、大田区御園一丁目二五番九九(本件第二従前地)の評価については次のとおりである。

(一) 右従前地の評価に必要な項目は、次のとおり認定した。

(1) 平均平方メートル当り指数、指数一個当りの単価および比例係数は第一従前地と同じである。

(2) 面積

本件第二従前地の登記簿上の面積は一三九・二一平方メートルであつたが、基準地積は、一三九・七二平方メートルであつた。

(二) 右の評価項目にもとづいて、本件第二従前地の評価は、次の算式により求められた。

(1) 評価指数

平均平方メートル当り指数×面積=二七七×一三九七二=三八七〇二

(2) 評定価額

評価指数×指数一個当りの単価=三八七〇二×一五〇=五八〇五三〇〇

(3) 比例権利価額

評定価額×比例係数=五八〇五三〇〇×一・〇三〇九七五六二四=五九八五一二三(円)

六 換地の評価について

本件換地(大田区西蒲田七丁目二五番六および同番一〇)の評価にあたつては、従前地の場合と同様に、まず一筆の土地として平均平方メートル当り指数を算定し、これを右二筆の土地の面積に乗ずることによつて各筆の評定指数を算出したものである。

(一) 平均平方メートル当り指数の算定について

(1) 路線価

本件換地は、前後を道路に挟まれたいわゆる正背路線地であつて、その路線価は、正面路線が二八〇、背面路線が二五〇であつた。

(2) 面積

本件換地の確定地積は、六六一・〇二平方メートルであつたが、そのうち正面路線から計算すべき面積は四二〇・〇平方メートル、背面路線から計算すべき面積は、二四一・〇二平方メートルとして算定した。

(3) 奥行逓減割合

正面路線からの奥行は三〇メートルであり、それに対応する奥行逓減割合は九二・四であつた。一方、背面路線からの奥行は一五メートルであり、それに対応する奥行逓減割合は九八・五であつた(土地評価基準B表適用)

(4) 以上の項目にもとづいて、本件換地の平均平方メートル当り指数は、次の算式により求められた。

〔合計指数〕

ア 正面路線について

路線価×面積×奥行逓減割合=二八〇×四二〇・〇×〇・九二四=一〇八六六二・四 (a)

イ 背面路線について

路線価×面積×奥行逓減割合=二五〇×二四一・〇二×〇・九八五=五九三五一・二 (b)

ウ 合計指数

(a)+(b)=一〇八六六二・四+五九三五一・二=一六八〇一三・六

〔平均平方メートル当り指数〕

合計指数÷合計面積=一六八〇一三・六÷六六一・〇二≒二五四

(二) 分筆後の各換地の評価について

本件換地は、従前地の分筆にともなつて、本件第一従前地に対応する大田区西蒲田七丁目二五番六(五六〇・四九平方メートル、以下「第一換地」という)と本件第二従前地に対応する同番一〇(一〇〇・〇三平方メートル、以下「第二換地」という)とに分割された。そして、右二筆の評価は、それぞれ次のとおり算定されたのである。

〔第一換地〕

(1) 評定指数

平均平方メートル当り指数×面積=二五四×五六〇・四九≒一四二三六四

(2) 評定価額

評定指数×指数一個当り単価=一四二三六四×一五〇=二一三五四六〇〇(円)

〔第二換地〕

(1) 評定指数

平均平方メートル当り指数×面積=二五四×一〇〇・〇三=二五四〇八

(2) 評定価額

評定指数×指数一個当り単価=二五四〇八×一五〇=三八一一二〇〇(円)

七 本件清算金の算定について

以上のようにして算出された分筆後の各従前地と各換地の評価にもとづいて、本件清算金はそれぞれ次のとおり算定されたものである。

1 第一従前地

第一従前地の比例権利価額-第一換地の評定価額11三二二六二七八四-二一三五四六〇〇=一〇九〇八一八四(円)

2 第二従前地

第二従前地の比例権利価額-第二換地の評定価額=五九八五一二三-三八一一二〇〇=二一七三九二三(円)

以上に述べたとおり、本件清算金は、路線価式評価法という合理的な評価方法により算出されたものであつて、なんら違法なものではないというべきである。

八 土地区画整理事業における土地評価と不動産鑑定評価基準による鑑定評価との関係

1 土地区画整理事業における土地の評価方法として路線価式評価法が用いられていることについてはすでに主張したところであるが、本来、評価の対象となつた土地が同一のものであるならば評価の方法の如何にかかわらず当該土地の評価額は同一となるべきものかも知れない。しかし、対象土地が同一であつたとしても、評価の対象として把握すべき価値は多面的であり、評価の目的が異なるものであるならば、おのずからその結果としての評価額も異なるのが当然である。したがつて、路線価式評価法(ここでは、土地区画整理事業において用いられるもののみをいう。)による評価と不動産鑑定評価基準による鑑定評価(以下単に「鑑定評価」という。)とは、前者が土地区画整理事業における清算金、減価補償金等の算定が目的であるのに対し、後者が取引市場において成立する経済価値(交換価値)の把握を目的とするものであるから、その評価の要素もそれぞれ異なり、その結果として評価額に差が生ずることもありうるのである。

すなわち、土地の評価額には、原告らも主張するように、同じ路線価式評価法によるものであつても、相続税財産課税標準価格と固定資産課税標準価格とは異なるものであるが、これはそれぞれの目的の相違から、いずれも正しい評価額として是認されている。これと同様に、土地区画整理事業にもその事業目的に応じた土地の評価額が別個に存在するのであつて、すべての場合に鑑定評価による評価額が妥当するとは限らない。

2 そして、右の路線価式評価法による評価と鑑定評価とは、具体的には次の点において異なるのである。

(一) 土地区画整理事業における土地評価は、清算金、減価補償金等の算定という特殊な目的に応ずるものであるのに対し、鑑定評価は、取引市場における経済価値(交換価値)の把握を目的とすること(不動産鑑定評価基準第一、一参照)。

(二) 右の目的の相違から、路線価式評価法による評価は、比較的短期日の間に大量の土地を同一時点で評価し、しかも右土地間のバランスをはからねばならないため、ある程度統一的・画一的処理を必要とするのに対し、鑑定評価は、特定の土地を個別的・具体的に評価するものであること。

(三)路線価式評価法による評価は、地域的な建物の状況はともかくとして個々の土地についての評価において建物の存否はこれを考慮しないのに対して、鑑定評価は、対象土地に存する建物の状況等も考慮しなければならないこと。

(四) 路線価式評価法による換地の評価は、工事概成時における換地の状況を評価の対象とするが、その評価にあたつては公共施設の整備拡充といつた土地区画整理事業による開発利益のみを考慮し、その他の事情による価値の変動(たとえば、隣地にデパートができたとか、ビルができて日陰になつたとかという事情など)を個別に考慮しないのに対し、鑑定評価では右のような事情も当然に考慮されること。

原告らは、右のような路線価式評価法による評価と鑑定評価との相違を無視し、ただ単に本件従前地及び本件換地についての被告の評価額と鑑定評価の結果との不一致をもつて、本件清算金交付決定処分が違法であると主張しているがそのような主張には理由がないというべきである。

九 標準画地と路線価について

1 まず、標準画地とは、道路に直角に接する土地で、その平均的利用価値が最高とみなされる矩形地をいうものである。

すなわち、施行者が、ある道路に路線価を付ける際に、当該道路にもし標準画地(たとえば、住宅地においては、間口四メートル以上、奥行九から一二メートル以内の矩形地である。)が接していたと仮定して、その標準価値が有するであろう価値を求め、その単位面積当りの価値を右道路の路線価として決定するのである。したがつて、標準画地は、施行地区内に存在する具体的な土地を意味するものではなく、路線価算定の前提として想定されるものにすぎないのである。

2 次に、路線価とは、右にも述べたとおり、道路に標準画地のみが沿接していると想定した場合における標準画地の平方メートル当り価格をいうのである。すなわち、ある道路に標準画地が接していると仮定した場合に、右標準画地が有する単位面積当り(平方メートル当り)の価値を当該道路の路線価とするのである。

そして、さらに、施行地区内のすべての道路(一つの道路については原則として各街区毎に路線価を付ける。)について路線価をつけた後、区画整理前の路線価のうちで最高のものを一〇〇〇(個)として換算した上各路線価を指数化するのである。こうして求められて道路に付されたものが路線価指数である。したがつて、路線価指数は、ある道路に標準画地が接していた場合に右標準画地の有する単位面積当り価値を示すと同時に、各道路に接する標準画地間の相対的な価値関係を示すものである。

3 次に、これから具体的な宅地の価格を算定するには、当該宅地が標準画地と全く同一のものであるならば、右宅地が接する道路の路線価指数にその面積を乗ずるのみで、右宅地の価値が指数で表示されることになる(これを宅地の総指数という。)。しかし、具体的に存在する個々の宅地は、必ずしも標準画地と一致するわけではない。そこで、両者の間口、奥行、形状等の相違に応じて、それぞれ修正がなされた後、各宅地の総指数が求められる。ただし、こうして求められた各宅地の総指数は、あくまで指数であつて、その金銭的価値をただちに示すものではない。すなわち、このような各宅地の総指数を金銭的価値として表示するためには、当該施行地区内に共通に定められた指数一個当りの価値を示す「指数一個当りの単価」(本件の場合は、一五〇円)をそれぞれの宅地の総指数に乗じなければならないのである。

右のようにして、各従前地及び各換地についての価格すなわち金銭的価値が求められるのである。さらに、このうち従前地の評価については、比例清算方式を採用していることから、右価格にそれぞれ比例係数を乗じたもの(すなわち比例権利価格)が、従前地の価格となるものである。

路線価式評価法における標準画地及び路線価の意味は、右に述べたとおりであるにもかかわらず、原告は、標準画地を被告が具体的に選択する現実に存在する土地であるかの如く、また、路線価が各宅地の評価を意味するものと理解しているようであるが、これはいずれも失当である。

第三証拠関係 <省略>

理由

第一原告適格の有無について

一 原告両名の訴について

本件清算金交付決定処分は、被告の主張するように単なる授益的処分ではなく、当該事業施行地区内の宅地について換地処分の結果生ずる不公平を過不足なく公平ならしめるために、施行者において損失を受けた者に対し金銭を交付して、その損失を填補しようとする行政処分であるから、その実質において損失補償の支払の性質をも有するものというべきである。したがつて、右処分を受ける者が、交付清算金の額の当否を争う法律上の利用を有することは当然といわなければならない。

よつて、右の点に関する被告の主張は採用できない。

二 原告五十嵐の訴について

原告五十嵐の主張によれば、同人は原告中島から本件従前地の所有権と切離して交付清算金の請求債権のみの譲渡を受けたというのである。

ところで、土地区画整理事業の施行に係る土地について権利者の変更があつた場合、旧権利者に対してなされた処分は新権利者に対してなされたものとみなされるから(法一二九条)、従前地の所有権を譲受けた者が従前地についてなされた清算金決定処分をも含む換地処分全体を争う訴訟に関して原告適格を有することは明らかである。

しかし、当該土地所有権と切離して交付清算金の請求債権のみを譲受けた者については前記法条の適用されないことは規定上明白であるから、同法条に基づいては原告適格を取得することはできないものというべきである。

もつとも、換地処分は、土地区画整理事業施行地区内の土地に関する権利の変更を生じさせるいわゆる換地指定処分のほかに清算金に関する権利義務を設定する清算金決定処分をも含み、両者相俊つて換地処分の内容をなすものであるから、換地処分の相手方が清算金決定処分についてのみ不服ある場合には、清算金決定処分のみを争うことは換地処分の内容の一部を争うものとしてこれを妨げえないものというべきところ、交付清算金の請求債権のような実体上の権利が譲渡された場合においては、右債権の譲受人において換地処分中の清算金に関する決定処分について争う地位(処分の相手方たる地位)をも承継取得するのではないかとの疑いがないのではない。

しかしながら、交付清算金の請求債権の譲受人が、当該換地処分について有する訴の利益は、結局事実上の利益に止まり、原告適格を基礎づける法的利益とまでは至らないものと解するのが相当である。

すなわち、交付清算金の制度は後述のとおり、土地区画整理事業において従前地と換地処分後の土地(換地)との間に換地指定処分を違法ならしめない程度の若干の不照応が生じた場合に、それを補償するために換地指定処分に附随してなされる処分であつて、右処分の効力は換地指定処分の効力によつて左右され、かつ、清算金の額の多寡は従前地と換地との間の不照応の程度とも表裏一体ないし相関関係にあることからすれば、換地指定処分そのものについて不照応等の違法を主張することのできる固有の法的利益を有する換地処分の相手方(従前地の所有者)たる地位こそが、当該換地指定処分に随伴する清算金決定処分を争う法的利益に結びつく関係にあるものというべきである。以上の次第からすれば、従前地の所有者のみが清算金決定処分を争いうるものと解するのが相当である。

そうだとすると、その反面において換地処分の相手方から交付清算金の請求債権のみを譲受けたに過ぎない者は、換地指定処分を争う法的利益を有しないし、したがつて、その故に清算金決定処分を争う法的利益をも有しないといわなければならない。

してみれば、原告五十嵐は本件換地処分(のうち、清算交付金に関する決定部分)の取消を求めるにつき法律上の利益を有する者に当らないから、同原告の本件訴は不適法というべきである。

第二本件清算金交付決定処分の当否について

一 被告が、昭和四六年七月一二日付をもつて東京都市計画第一二地区復興土地区画整理事業の換地計画により原告中島の所有にかかる本件従前地を本件換地に換地すること及び交付清算金を一三、〇八二、一〇七円と決定する旨の処分をしたことは当事者間に争いがない。

二 土地区画整理は、都市計画区域内の一定範囲の土地を健全な市街地に造成するため、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図ることを目的として、土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更の工事をするものであつて、当該施行区内の土地を一団とみなし、これより先ず道路、公園等の公共施設の用地を控除したうえ、残地の区画を整然とし、整理前の宅地の権利関係を、原則として整理後の宅地(換地)に移行せしめるものである。そして、従前の宅地各筆に照応すべき換地は、土地区画整理法八九条の定める標準により定められることになるが、具体的な整理事業においては、従前の宅地に厳密には照応しない換地が定まり、若しくは換地が存しないことも生じうるので、このような場合における施行地区内権利者相互間の不公平を是正しようとするのが清算金制度であると解せられる(同法九四条参照)。

そして、現実に定められた換地が、法の定める標準に照応する客観的換地よりも価格が大であれば、その権利者はなんらの出損なくして不当に利益をうけることになり、逆に現実に定められる換地の価格が小であるか、若しくは換地が定められない場合には、その権利者はなんらの代償なくして換地の一部若しくは全部を失つたと同一の結果をきたすから、不当に利得した者から清算金を徴収し、これをもつて損失をうけた者に清算金を交付し、権利者相互間に過不足なく公平ならしめるのである。したがつて、実質的には清算金の徴収は不当利得金の徴収であり、清算金の交付は損失補償の支払というべきものである。

そこで法九四条前段では、清算金額算出の標準としては、従前の宅地と換地の位置、土質、水利、利用状況、環境等を総合的に考慮すべきことが要求されているのであるが、すでに述べたとおり、清算金制度は、当該土地区画整理事業施行区内の土地を一団とみなして、右施行区内における権利者相互間の不公平をなからしめようとするものであるから、換地処分により生ずる個々の権利者の利得ないし損失の有無は、後記のとおり、当該土地区画整理事業施行の前後における宅地の価額の総額とを対比して算出されるべきである。

原告は、本件従前地と換地との間に不照応があるとして、単に、個々の権利者の従前の宅地と換地との各価額の差だけをとらえてこれを清算金の額とすべきであると主張するけれども、その失当であることは前述したところによつて明らかというべきである。

三 被告は本件清算金を算出した方法として、従前地の比例権利価額から換地の評定価額を差引いて求めるいわゆる比例清算法を主張する。

右清算法は従前地の比例権利価額及び換地の評定価額を正確公平に算定するかぎり妥当性を有するものと解すべきである。

すなわち、すでに述べたとおり、換地計画において換地及び清算金を定める場合においては、法八九条、九四条所定の諸条件を総合的に考慮してなされるべきであることはいうまでもないところ、これらの多種多様の諸条件を指数化して整理前の土地と換地との間に総合的均衡をはかり以て施行地区内における権利者相互間の公平を図らんとするのがまさに、後記のとおり土地の路線価式評価法であると解せられるから、従前地の比例権利価額及び換地の評定価額もともに右の路線価式評価を基礎としてその評価額が求められ、次いで右各土地の評価額から清算金が算定されるのである。

さらにこれを敷衍するに、清算金の制度は、すでに述べたとおり、単にそれぞれの従前地と換地の各評定価額を比べ、その差額を徴収し、若しくは交付するという方式をとるものではなく、区画整理事業施行区内の土地を一団とみなして、右施行区内における権利者相互間の公平をはからんとするにあるから、施行区内における換地についての宅地価額の総額と従前地についての宅地価額の総額とを比較し、前者の後者に対する比、すなわちいわゆる比例係数を求め、しかるのちこれを各従前地の評定価額に乗じて比例権利価額を求め、これと当該換地の評定価額と比較することによつて、初めて、各従前地の同一区画整理事業地区内における土地価額の増進、変動の有無及びその程度・範囲を客観的に、数値としてとらえることが可能となるものである。

四 そこで、以上の前提のもとに本件交付清算金の算定をするに、交付清算金は次の算式により求められる。

交付清算金額=従前地の比例権利価額-換地の評定価額

1 本件従前地の比例権利価額について

比例権利価額はすでに述べたとおり次の算式により求める。

比例権利価額=土地の評定価額×比例係数

比例係数=当該地区における換地についての宅地価額の総額÷当該地区における従前地についての宅地価額の総額

2 土地区画整理事業における土地評価について

すでにみたとおり、本件交付清算金を算定するには、本件従前地及び換地双方の評定価額の算定がその前提となるものであるところ、被告は、右評価方式として路線価式評価法を主張するのである。

ところで法七一条、六五条によれば(都知事は換地計画において清算金を定めようとする場合においては、土地の価格を評価しなければならないものとし、その評価については、知事が土地区画整理審議会の同意を得て選任した評価員の意見を聞かなければならないと定めているのであるが、都知事のなすべき土地評価の方法そのものについてはなんらの規制もない。したがつて、帰するところ被告の主張する路線価式評価法による土地評価に合理性があるかどうかという点について検討されるべきである。

そこで検討するに、土地区画整理事業の施行上、施行者が決定すべき土地の価格は、施行地区内の各土地について平等な計算方法によつたというだけでは足らず、公平な方法によつて算出された結果が土地の正常価格すなわち、客観的な取引価格に一致するものでなければならないこというまでもない。

しかしながら、土地区画整理事業においては、大量の筆数の各土地について一定の基準時における価格を公平に算定する必要があり、しかも、従前地及び換地双方について同種の価格算定法を採用しなければならないことからすれば、土地の正常価格を求めるのにいかなる方法でもよいということはできず、したがつて、各土地の標準純収益を基礎として評価額を求めんとするいわゆる客観的収益価格評価方法ないし、実際売買価格を比較して評価額を求めんとする売買価格比較法や各土地の実際の有形的状態について実情調査を行ない練達者の経験を基礎として達観して直接に価格を評価するいわゆる達観式評価法等はいずれも採りえないことは明らかである。

そうとすると、被告の主張する路線価式評価法は、他の評価法のもつ以上の欠陥を克復し、土地区画整理事業に伴う比較的短期日の間に大量の土地を同一時点で評価し、しかも右土地間のバランスをはかる要請にこたえる合理的な評価法ということができる。

3 本件従前地の評定価額及び比例権利価額

(一) 本件第一、第二従前地がもと大田区御園一丁目二五番一四(登記簿地積一、一八〇・六六平方メートル)の一部であり、本件区画整理事業施行後二度にわたり一〇筆の土地に分筆されたうちの二筆であることは、原告において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなされるところ、このように事業施行後に分筆された土地についての評価は分筆された土地毎になすよりも、分筆前の土地について平均平方メートル当りの指数を求め、これを基礎に分筆後の本件各従前地の評定額を求めるのが合理的である。

(二) <証拠省略>によると、本件分筆前の従前地は

<1> 路線価 五〇〇

<2> 基準地積 一、一八四・九五平方メートル

<3> 単独奥行百分率 七九・〇パーセント

<4> 盲地修正割合 七〇パーセント

であることが認められる。

したがつて、平均平方メートル当り指数を求める計算式は次のとおり求められる。

合計指数=<1>×<2>×<3>×<4>

平均平方メートル当り指数=合計指数÷<2>

右算式に前記数値をあてはめ、計算すると、平均平方メートル当り指数は二七七(小数点以下四捨五入)となる。

(三) 本件第一従前地の評価額

<1> 基準地積 七五三・一五平方メートル

<2> 指数一個当りの単価 一五〇円

<3> 比例係数 一・〇三〇九七五六二四

原告は、右の数値についてはいずれもこれを争わないから自白したものとみなされるところ、土地の評価額は

平均平方メートル当り指数×面積×指数一個当りの単価

により求められるから、右算式に前記各数値をあてはめ計算すると三一、二九三、四五〇円となり、さらに、比例権利価額は

評定価額×比例係数

の算式で求められるから、これに前記数値をあてはめると、三二、二六二、七八四円を得る。

(四) 本件第二従前地の評価額

本土地の基準地積が一三九・七二平方メートルであることについては原告は明らかにこれを争わないから自白したものとみなされる。

したがつて、評定価額の算式は

平均平方メートル当り指数×面積×指数一個当りの単価

により求められるから、右算式にすでに明らかになつている右各数値をあてはめ計算すると、五、八〇五、三〇〇円が得られ、これに前記比例係数を乗ずると比例権利価額は五、九八五、一二三円となる。

4 本件換地の評定価額

(一) <証拠省略>によると、本件換地は

<1> 路線価 <イ> 正面路線 二八〇

<ロ> 背面路線 二五〇

<2> 面積  <イ> 正面路線から計算すべき面積 四二〇・〇平方メートル

<ロ> 背面路線から計算すべき面積 二四一・〇二平方メートル

<3> 奥行逓減割合

<イ> 正面路線 九二・四パーセント

<ロ> 背面路線 九八・五パーセント

であることがそれぞれ認められる。したがつて、

<4> 正面路線の指数

<1><イ>×<2><イ>×<3><イ>=一〇八六六二・四

<5> 背面路線の指数

<1><ロ>×<2><ロ>×<3><ロ>=五九三五一・二

であるから、本件換地の合計指数は

<4>+<5>=一六八〇一三・六

であり、平均平方メートル当り指数は右合計指数を面積<2>で除すことにより二五四(小数点以下切捨)が得られる。

(二) 本件換地は、本件第一、第二従前地に対応してそれぞれ、第一換地、第二換地と定められたものであることは弁論の全趣旨により明らかである。

そこで右各換地毎に評価額を求めるに、評価額は

平均平方メートル当り指数×面積×指数一個当り単価

の算式で求められるから、前段(一)掲記の各証拠により第一換地の評定価額

二五四×五六〇・四九×一五〇=二一、三五四、六〇〇(円)

第二換地の評定価額

二五四×一〇〇・〇三×一五〇=三、八一一、二〇〇(円)が得られる。

5 本件交付清算金の算定

すでに述べたとおり、清算金は

従前地の比例権利価額-換地の評定価額

の算式によりこれを求めることができる。したがつて、

(一) 第一従前地の清算金

三二、二六二、七八四-二一、三五四、六〇〇=一〇、九〇八、一八四(円)

(二) 第二従前地の清算金

五、九八五、一二三-三、八一一、二〇〇=二、一七三、九二三(円)

となる。

以上の次第で、被告のなした本件交付清算金決定処分は当裁判所の右認定と同じであるから、同処分には違法の瑕疵は認められないというべきである。

五 原告の主張について

1 原告は、被告が本件従前地及び換地についてなした路線価式評価法による土地評価は、標準画地の設定の方法が杜撰であり、かつ評価の結果がいわゆる土地の正常価格(もつとも原告の主張する鑑定価額)と著しく隔差があるとして、不合理であると主張する。

そこで、右主張につき検討する。

(一) 路線価式評価法における標準画地とは、各土地の路線価を付設するに際して右価額の標準となるべく想定された道路に直角に接する土地で、間口と奥行が土地の平均的利用価値からみて最高度に均衡する矩形地をいうものである。したがつて、標準画地は、区画整理事業施行地区内に具体的に存在する特定の土地を意味するものではなく、あくまでも、各土地の路線価を決定するに際して基準となるべく想定された標準的土地であるから、後記の、とおり、具体的な各土地の路線価を決定するに際して標準画地に対する路線価の修正方法の合理性は問題になりえても標準画地自体の選定について当否が問われるということは意味をなさないというべきである。

(二) もつとも、具体的土地の路線価を決定するに際しては、前記標準画地に対する修正方法が重要な作業となるところ、右作業は具体的土地の現状の正確な把握が前提であることはいうまでもないが、標準画地に対する修正方法ともいうべき、土地の奥行逓減割合、三角地その他の修正割合等については<証拠省略>によつて認められるとおり、東京都において土地区画整理事業土地評価基準を設けてその合理性をはかつているのであるから、右基準の適用について正確を期し、当該土地の現状につき認識を誤らない限り、路線価の決定は妥当な結果を得られるものというべきである。

(三) ところで、路線価式評価法における路線価は、具体的土地の標準画地の単位地積(平方メートル当り)に対する価格をいうものであるところ、区画整理前後の路線価の比較を容易ならしめる技術上の必要から、路線価は円単位によらずに前示のように指数(路線価指数)によつて表示される。そして、具体的な土地の評定価格は右路線価に当該土地の面積を乗じ(すなわち、当該土地の総指数)、これにさらに単位指数一個当りの価値(本件の場合はすでにみたとおり一五〇円)を乗じて円単位の価額に換算することとなる。

したがつて、この方式による評価が適正であるか否かは、右指数一個当りの単価のとり方いかんによつて左右されるものである。

しかるところ、法七一条、六五条によれば、土地区画整理事業の施行者である都知事は施行地区内の土地の評価については評価員の意見を聞かなければならない旨定められているところ、被告が右評価員の意見をきいたうえ、本件事業施行地区内の土地の評価をなしたことについては原告はこれを争つていないから自白したものとみなされるばかりでなく、被告が評価員の意見をきいたうえ決定した前記指数一個当りの単価の価額自体についても不相当であると疑うに足りる資料はなんら見出すことができない。

(四) そこで、原告が本件従前地及び換地について正常価格であると主張する点について考察するに、原告の右主張の根拠が鑑定人平野常雄の鑑定結果に基づくことは明らかである。

しかしながら、<証拠省略>によれば、右鑑定結果は本件従前地の区画整理事業施行前における原状を直接客観的に把握したうえで意見が提出されたものではなく、従前地について撮影された数葉の写真並びに従前地の原状について知識を有する昔からの供述を得たうえ、いわば間接的に認識したところを前提として右土地の価格の評価をしたものであつて、厳密な意味での土地価格の鑑定といえないことは明らかである。

他方、本件換地についてなした前記鑑定人の鑑定結果と被告のなした評価とが一致しないことは原告の主張するとおりである。

しかしながら、すでに述べたとおり、被告において清算金に関する決定の前提としてなすべき土地の評価は、従前地、換地ともに共通する公正妥当な評価方法を実施すべきこと、さらに、多数筆の土地を短期間に評価すべき要請のあること、土地評価の目的、すなわち、土地区画整理事業施行地区内における清算金の算定と取引市場において成立する経済価値(交換価値)の把握を目的とする前記鑑定との間には評価の要素、評価方法の相違を生ぜしめることもありうるから、両者の土地評価の間に差異の生ずることはむしろ当然であり、被告のなした一連の評価方法に不合理を見出しえない以上、右評価の不一致をもつて被告の評価に瑕疵があるものとはいいがたい。

2 原告中島は、被告の係員が換地処分に伴う不利益は清算金額の決定の中に償う旨約束したと主張する。右主張の趣旨は必らずしも明らかとはいいがたいが、いずれにせよ原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はないし、本来、清算金制度は法の定める方式に従つてその金額が算定されるべきもので、処分庁と土地の権利者との間の具体的な協定の内容が右清算金決定の中にもりこまれることはおよそ法の予定していないことであることからみても原告の右主張は失当として採用することができない。

3 以上の次第で原告の主張はいずれも理由がない。

第三結論

以上の理由により、原告五十嵐五郎の本件訴は不適法であるからこれを却下することとし、原告中島勇の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 内藤正久 山下 薫 三輪和雄)

物件目録(第一)<省略>

物件目録(第二)<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例